ラ・ベンタ遺跡公園(1)「歩く人」「髭の男の石碑」
メキシコ、タバスコ州の州都ビジャエルモサにあるラ・ベンタ遺跡公園。
メソアメリカ最古の文明の1つオルメカ文明(紀元前1200年〜)において、紀元前850年頃に中心地となったラ・ベンタからの出土品が展示されています。
非常に興味深い石碑、石像が多数あるので、いくつかピックアップしてご紹介します。
訪問日:2019年12月
目次
ラ・ベンタ遺跡公園 博物館と動物園
https://tabasco.gob.mx/parque-museo-venta
入場料 国民(メキシコ人):39ペソ 外国人:44ペソ
月曜日は国民・外国人問わず入場無料のようです。たまたま訪問日が月曜日だったため無料で入れました。
入場無料の場合はチケットを買う必要はなく、入口で名前を書いて入場。
公園は屋外にあり、博物館エリアと動物園エリアに分かれています。博物館エリアでは出土品(レプリカ含む?)が屋根のない場所に展示されており、雨ざらし…。私が訪問したときも、雨に濡れて乾きかけた状態と思われる石造物が多かったです。雨で石彫りがどんどん磨耗してしまうんじゃ...とちょっと心配になりますが。
途中、人馴れしているハナグマをたくさん見かけました。
動物園エリアには、猿やジャガーなどがいます。ジャガーはアメリカ大陸に生息する最大のネコ科動物。オルメカ文明における信仰の中心でもありました。体の模様からチーターっぽい俊敏なイメージを持っていたのですが、チーターよりも手足・胴体が太くずんぐりしていて、のっしのっしと歩いている感じでした。
この遺跡公園の隣には自然史博物館があり、恐竜や人類史などの展示が見学できます。せっかくここまで来たので入ってみました。
小さい博物館なので回るのに時間はそんなにかかりません。
https://tabasco.gob.mx/museo-historia-natural-jose-narciso-rovirosa-andrade
入場料:22ペソ
ビジャエルモサは、パレンケ遺跡と一緒にぜひ
ビジャエルモサにわざわざ観光に行く人は少ないかもしれませんが、オルメカ文明の魅力を感じられるラ・ベンタ遺跡公園はとてもおすすめ。空港もありますし、機会があればパレンケ遺跡とセットで訪れてみるのも良いと思います。私は今回はパレンケ遺跡を訪れる際の拠点として訪問しました。
ビジャエルモサからパレンケ遺跡までは車で2時間半です。空港から公共バスも出ています(ADOで350ペソ)。ビジャエルモサ発のパレンケツアーは値段が高めなので、レンタカーや公共バスでの移動が良いかもしれません。
パレンケまでツアーで行きたい場合は、チアパス州サンクリストバルデラスカサス発の方が一般的でツアー会社も多くあり、値段も安いです(ただし、移動時間が片道5時間ほどあり、朝4時発〜22時ホテル着のようなツアーになります)。パレンケについてはツアーも含めて下記で紹介しています。
それでは展示品を紹介します。以下本文中の記述は、メキシコの大学で受けたメソアメリカ美術の授業内容に基づいています。
モニュメント13:歩く人(El caminante / Monumento 13)
旗を持って歩く人が描かれている石碑です。メソアメリカ美術において「歩く動き」「足跡」は、商人を表します。人物の隣に足跡も見えますね。オルメカは、メソアメリカ全域に交易を広めた文明でした。
石碑では少しわかりにくいんですが、人物の頭には頭飾り、結われた長い髪が描かれ、鼻飾り、首飾り、足首飾りも描かれています。この人物が高い社会的地位の持ち主であることの証。
またこの石碑は、当時すでに絵文字が存在していたことを示す資料として非常に重要なものとなっているのだそうです。人物の右側に描かれている3つのマークがそれ。ただ、まだ解読はされていないようです。
石碑3:髭の男の石碑(Estela del hombre barbado / Estela 3)
2人の男性が向かい合って立っています。右側の男性が髭あり。石碑は一部潰れてしまっていますが、各男性の上方には3人ずつ小さめの人物が描かれています。授業では、2国間の平和協定のシーンを表しているとの解説でした。
2人の男性が各国の王で、髭のある右側の人物がラ・ベンタ王とされているようです。ラ・ベンタ王の横顔は、左の王に比べると鼻が高く西洋人のようにも見えますね。左の王は、典型的なオルメカ人の横顔。丸い鼻と厚めの唇です。
ラ・ベンタ王の横顔はこうしたオルメカ人の特徴とはちょっと異なっており、当時すでに複数民族の混血が進んでいたことが窺えます。
ちなみに王の髭は、動物の毛でつくった人口髭なんだそうです。へー。髭に紐をつけておき、耳飾り用に開けている耳の穴に結び付けて髭に見せているんだとか。当時髭は、高い地位、豊富な知識、思慮深さの象徴でした。人工髭ということは、自然には伸びなかったのかな? ちょっとわかりません。
ラ・ベンタ王が首飾りにしているのは、これまでの戦争で打ち負かした敵将の頭。
Cabeza reducida(カベサ・レデュシーダ / 縮小された頭)と呼ばれるもので、戦争の勝者が捕虜にした敵の頭部を加工し、ネックレスや頭飾りにしていたものだそうです。相手を捕虜にしないと手に入れられない、いわば戦利品ですね。
加工とは簡単にいうと顔・頭の皮を切り取って、うまい具合に形を保ったままミイラ化する感じのようです(ちょっとこわい...)。すると頭のサイズが実物の半分くらいに小さくなるとのこと。
Cabeza reducida を身につけている人物は、優秀な兵士、また戦力の強い国の人物であると考えられます。トロフィーのようなもので、家で誰かの訪問を受けるとき、また自身の武力を示す必要があるとき等に積極的に身につけられました。
この石碑からは、2国間の平和協定と同時に結婚協定もなされたことが読み取れるとのこと。というのも左側の王のすぐ左にいるのが女性で、この王の娘なんだそう。強い武力を持つラ・ベンタ王に戦争を仕掛けられそうになった左側の国の王は、娘を相手国に差し出し、自分が相手国王の義父となることで自国への攻撃を避けた、ということのようです。
左側の王の頭飾りにはトウモロコシ農業に言及する要素が描かれており、この国はトウモロコシ生産で栄えていたと推測されることから、ラ・ベンタ王はトウモロコシの獲得を狙って戦争を仕掛けようとしたと読み取れるそうです。
もちろんこれは解釈の1つだと思いますが、非常に面白いです。
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