ウシュマル遺跡訪問記(2)素晴らしい装飾の遺跡
メキシコ、ユカタン州にあるマヤ遺跡ウシュマル。
8〜11世紀頃に栄えた都市で、1996年に世界遺産に登録されました。楕円形で有名な魔法使いのピラミッドは、マヤ文明関連の本や雑誌の表紙としてよく使われています。州都メリダから南に車で1時間半ほどの距離にあります。
遺跡概要や行き方については前回の記事をご覧ください。
ウシュマル遺跡訪問記(1)行き方、ツアー、ガイド
訪問日:2019年12月
目次
以下、本文中の記述はガイドさんの説明に基づいています。
貯水槽
入場してすぐのところにあるのが当時つくられたままの貯水槽。
ユカタン半島の多くの地域にはセノーテ(地下の天然洞窟に水が溜まってできる泉)があり、人々はその水を生活用水として利用していましたが、ウシュマルの地域は丘陵地帯となっており川もセノーテもありませんでした。農耕で日々の生活を営むには雨の貯水が非常に重要だったそうです。ウシュマルの人々は、降った雨水を貯められるよう地下にこのようなタンクをつくりました。
貯水槽はウシュマル遺跡周辺に100以上もあるんだとか。この貯水量から、当時の人口は25,000人ほどであると推測されています。
遺跡内の建造物にも、雨の神様チャックへの強い信仰が表れています。
魔法使いのピラミッド
遺跡内へと進むと、魔法使いのピラミッド裏面が現れます。
ピラミッドは通常四角くなっていますが、このピラミッドは楕円形。五度の増築が行われ、現在の形になったそうです。
角が丸い。
正面は広場になっています。ピラミッド前面には階段と、その左右に上から下までずらりと並んだ雨の神様チャックが。
チャック神のアップ。顔の中央部には、フックのような象のような鼻がつけられていました(ほとんどの顔ですでに取れてしまっていますが)。
ここまでの装飾は、他のマヤ遺跡では見られない。すごいです。チチェン・イッツァと同時代の遺跡ですが、チチェン・イッツァではこのような装飾は見られません。
階段の上には、チャック神が大きく口を開けたような入口が設けられています。こうした穴は、地下世界への入口とされていました。
この広場手前の建物の屋根には、下の写真のような鳥の彫刻が見られます。屋根の下部に並ぶEのようなユーロのようなマークは、トウモロコシの粒という説と、ガラガラヘビの尻尾についている鈴という説があるんだそう。
ピラミッド向かいの回廊にはマヤアーチの天井。天井の三角形の底辺になる部分には、石の崩壊を防ぐため写真のように木製の梁を渡していたんだそうです。マヤの他の遺跡でも同様の構造が見られます。
回廊内の小部屋の石積みで、イグアナがポーズ取ってました。びくともしない。手を振ると目だけちょろっと動きます。
尼僧院
マヤアーチの通路を抜けると、四辺を建物で囲まれた尼僧院に出ます。ここは別に尼僧院だったわけではないのですが、構造が尼僧院に似ていたことから発見者がそう名付けたようです。
北から東方面を見たところ
各建物は東西南北を向いており、北、東西、南がそれぞれ異なる高さの基壇を持っています。北が一番高く、その次が東西、一番低いのが南。北を天上世界(Cielo)、太陽が昇り降りする東西を地上(Tierra)、南を地下世界(Inframundo)として建築されたのではないかとのこと。
北から西方面を見たところ
それぞれの建物の彫刻が本当に素晴らしい。主にチャック神、ギザギザの幾何学模様、双頭の蛇、羽毛の生えた蛇(尻尾の先には鈴)がモチーフになっています。
球技場(Juego de pelota)
メソアメリカ のどの遺跡にもあり、遺跡に来たら必ず見たい球技場。結構しっかり修復されていますね。壁に取り付けられた輪も見えます。
亀の家
屋根に亀が並んでいるシンプルな建物。他の建造物に比べると装飾が少なく淡白に見えます。
総督の館
上部一面に、チャック神、蛇、幾何学模様の装飾が施されています。
写真ではわかりにくいのですが、この館は一番下に非常に大きな基壇(草が生えている部分)、その上に2つ目の基壇(階段が設置されている部分)、そしてその上に建物が建てられています。一番下の基壇は、これを人が石でつくったのか? と思うような大きさ。
ウシュマルは「三度に渡って建てられた(都市)」(Tres veces construida)という意味だとされていますが、ガイドさんによるとこの館が三段で建てられていることからそのように名付けられたとのことでした。
館の前にある、祭壇と双頭ジャガー。
グラン・ピラミッド
総督の館の奥にある登れるピラミッド。他の多くのピラミッドと同様、段差が急で登りにくいのですが、頂上からは良い景色が見渡せます。頂上には魚のような鳥のような、不思議な動物の彫刻があります。ガイドさんが説明してくれたと思うんだけど、なんだったか忘れた...。
→調べてみたらコンゴウインコでした。
グラン・ピラミッドからの景色。雲が多く残念。午後からは雨が降りました。
鳩小屋
建物上部の様子が鳩小屋のようだから名付けられたとのこと。
ウシュマルに伝わる小人の伝説
魔法使いのピラミッドは、小人が一晩でつくったからそう呼ばれる、という話があります。ガイドさんが、それにまつわる伝説を話してくれました。
昔、魔法使いのお婆さんがいた。そのお婆さんは子どもがほしかったが授かることができなかった。そこで神様が、お婆さんに卵を1つ与えた。お婆さんは大事に卵を温め、卵から1人の子どもが生まれた。その子どもは小人にしか成長しなかったが、お婆さんは自分の子どもとして育てた。
ウシュマルで新しい王が必要になったとき、その小人は候補者の1人して選ばれた。王になるためには、3つの試練に合格する必要があった。
1つ目は、ココナッツの実を頭で割るという試練。ココナッツは非常に固いため、魔法使いのお婆さんは小人に(魔法の?)ヘルメットをつくってやった。小人はそのヘルメットのおかげで、ココナッツを割ることができた。小人の前に試練を受けた別の候補者は、ココナッツの固さで頭の方が割れてしまい、死んでしまったという。
2つ目の試練が、一晩でピラミッドをつくれというもの。これもお婆さんが魔法を使ってつくってしまった。それが魔法使いのピラミッド。
3つ目の試練は、一晩でウシュマルから隣の都市への道をつくれというもの。これも魔法使いのお婆さんの力を借りてつくってしまった。
3つの試練をクリアした小人は、ウシュマルの王になった。だからウシュマルの王は小人だと言われている。
この伝説は古くからこの地域に住む人々の間で口承され、たまたま考古学者が現地民の家に滞在した際に聞いたものが広がったとのことでした。
感想
メキシコ国内の遺跡をいくつか訪問しましたが、ここまでの装飾は他の遺跡では見られず、とても印象に残りました。デザインや技術を担当する専門職の人がいたんだろうなーと想像できますし、連なるチャック像の装飾が当時の雨信仰を想起させ、人々の思考が垣間見えるようで非常に興味深く感じます。小人の伝説も、ウシュマル遺跡の不思議な魅力を際立たせているように感じます。
ガイドさんが言うには、チチェン・イッツァとウシュマルでは、ウシュマルを気に入る人の方が多いとのことでした(ウシュマルのガイドさんだしね)。
ウシュマル遺跡 ★★★★☆
遺跡を見た後は、併設のレストランで昼食を食べて観光終了です。
ユカタン半島の伝統料理、コチニータピビル。