『ヒッコリー・ロードの殺人』アガサ・クリスティ
推理小説はいつもこの人が犯人かな〜なんて考えながら読むのですが、アガサ・クリスティの作品で犯人を当てられたことがない。いやまぁ、ミステリーが好きなわりに誰の作品でもほとんど当てられないんですがw
毎回毎回自分の想像を何重にも超えてくる話の展開と魅力的な人物描写があるから、アガサ・クリスティはやめられない。あと私ポアロが大好きなんですよね。
今回『ヒッコリー・ロードの殺人』を読んだので紹介します。
目次
『ヒッコリー・ロードの殺人』のあらすじ
ポアロの有能な秘書ミス・レモンが、珍しく誤字をしたことから物語は始まる。いつもは精密機械のように完璧な仕事をして、神経質で几帳面なポアロさえ苦情を言う隙がないくらいなのにいったいどうしたのか。
聞くと、彼女の姉が奇妙な問題に悩まされているらしい。これ以上誤字が増えても困ると思ったポアロはさっそく姉のハバード夫人をお茶に呼んだ。彼女の悩みは、自分が寮母を務めている学生寮でおかしなものが盗まれているということだった。
盗まれたものは、夜会靴の片方や口紅、ダイヤモンドの指輪、聴診器、電球、リュックサックにホウ酸の粉末、さらに料理の本... などなどで、そのほとんどが高価でなく他愛のないものばかり。しかもまったく一貫性がない。
(盗まれた品目のリストを見て、「じつにすばらしいーーまったく魅力的だ」と言うポアロがおもしろい)
話を聞いたポアロは推理で夜会靴の片方を発見すると、講演会をすると言って学生寮に赴き、警察を呼ぶよう助言する。その後すぐに「自分がやった」と寮生の一人が申し出たが、すべての盗品に関わったわけではないと主張する。
とりあえず関連品の弁償の話もまとまり、他の寮生にも過ちとして受け入れられ、これで一件落着かと思われた翌日、最初の事件が起きてしまう。
『ヒッコリー・ロードの殺人』の読みどころと感想
え、この本ってもしかしてあんまり人気ないんですか?
もしそうならすごく驚く。読み始めてすぐに引き込まれ、中盤から終盤はどきどきしながらあっという間に読み終えてしまった。
以下感想と、読むときのポイントを挙げてみます。
寮生たちが独特で魅力ありすぎ!
舞台が学生寮なので登場人物もほとんど寮生なんですが、留学生たちが非常に個性豊かに描かれていて、おもしろい。おもしろいって表面的に言いたいわけじゃなく、アガサ・クリスティの魅力的な人物描写力がこの作品でも遺憾なく発揮されていると思ってもらえれば。
寮生から性悪ばばあとか呼ばれてる寮長のニコレティス夫人も激しくて、読んでる分には楽しくて微笑ましい。いや実際に上司だったら最悪だろうけど。ポアロの秘書を務めるようなミス・レモンの姉ハバード夫人、さすがだなぁと思うわけです。
学生寮といっても全員が学生なわけではなく、働いてる人もいます。当時の「寮」の仕組みはよくわからないんですが、昔の日本で言う下宿っていう感じでしょうかね。
たくさんの登場人物の名前を覚えるのが最初ちょっと大変なので、名前と容貌・性格を整理しながら読み進めていったほうが良いですね。
個人的には、西アフリカから来た黒人留学生アキボンボが良い味出してて好きでした。
盗品の関連性の解き明かされ方が見事
奇妙な盗品について、最初に「自分がやった」と申告した寮生は「すべて自分がやったわけではない」と言います。
じゃあ、残りは誰がやったのか。
それらの盗品にどういう関連性があるのか。もしくはまったくないのか。
少しずつ、糸でつながっていくように明かされます。
最後、ホウ酸にまつわる謎解き部分が非常におもしろかったです。
原題は “Hickory Dickory Dock”
邦題は『ヒッコリー・ロードの殺人』ですが、原題は “Hickory Dickory Dock”。イギリスの伝統的な童謡(マザーグース)が由来となっているようです。
ヒッコリー・ロードは実在せず架空の通りのようなので、この童謡をモチーフに構想したのかな?
本文中にこの童謡の歌詞が出てくる箇所があるので、あぁこれが童謡の歌詞なんだなって思ってください。最初私は原題など認識せずに読んでたので、その箇所は「何のこっちゃ?」となりました。
Hickory, dickory, dock.
The mouse ran up the clock.
The clock struck one,
The mouse ran down,
Hickory, dickory, dock.
ヒッコリーディッコリードック
ネズミが時計を駆け上がる
時計の鐘が1時を鳴らす
ネズミが時計を駆け下りる
ヒッコリーディッコリードック
YouTube で聞いてみたら、聞き覚えのある英語の歌でした。
まとめ
『ヒッコリー・ロードの殺人』は 1955 年に発表されたようなので、アガサ・クリスティのキャリアでは半ばくらいに位置する作品なんですね。
なんか芳しくない評価もあるっぽいんですが、私はまったくそうは思いませんでした。個人的には少しも読み疲れることなく、おもしろくて一気読みしちゃう系だなと。登場人物の多さだけが最初大変ですが、そこは本のカバーについてる紹介文を利用しながら読めば問題にはなりません。そんなことよりおもしろい。
1点だけ。ポアロのセリフの口調に違和感が。
基本的にポアロは丁寧な敬語を使うと思うんですが、今回はなぜかいつものポアロ口調じゃない部分があった。英語がそういう感じなのかなぁ。
でもまーとにかく、よく聞くメジャー作品ではないとは思いますが、おすすめです。