『マギンティ夫人は死んだ』登場人物の相関図つくってみた~アガサ・クリスティ
アガサ・クリスティの42作目『マギンティ夫人は死んだ』。
いやぁ、長かった。最後まで読み終わったあと、冒頭の部分を読んだのはいったい何十年前だろう? と感じるほど。
なんか、いろんなことがありすぎて...。
とりあえず登場人物がめちゃくちゃ多いので、相関図を作って人間関係を整理してみました。
『ひらいたトランプ』を読み終わったあと、たまたまなんとなーく手に取った本でしたが、思いがけずオリヴァ夫人も登場してうれしかったです。
目次
『マギンティ夫人は死んだ』あらすじ
ポアロのアパートに、キルチェスター警察のスペンス警視が訪れた。
典型的な地方人の風貌で、赤ら顔に無表情で無口なスペンス警視。善悪について確固たる規範を持っているこの男は、自分が捜査を担当したマギンティ夫人殺害事件についてポアロに再調査を依頼した。
警察の捜査によって逮捕されたのは、マギンティ夫人の家の一部屋を借りていたジェイムズ・ベントリイ。さまざまな事実は、ベントリイが犯人であることを示していた。裁判の結果は有罪。弁護士は一応控訴するだろうが、絞首刑になるのも時間の問題だ。
ベントリイは非常に無愛想で印象の悪い男だった。誰からも好かれていないような男で、陪審員の目から見れば殺人者にしか思われない。
しかしスペンス警視には、彼がやったとはどうしても思えないのだった。
我が灰色の脳細胞への挑戦と受け取ったポアロは、スペンス警視から事件の概要を聞いた。
事件が起きたのは5カ月前。マギンティ夫人は64歳の未亡人で、近所の複数の家で掃除婦をして暮らしていた。夜の間に肉切り包丁のようなもので後頭部を一撃されていたが、凶器は見つかっていない。
部屋の中は散乱し、現金が盗まれていた。ベントリイの袖口には血とマギンティ夫人の髪の毛がついていた。他に犯人と思われるような人間は見当たらない。
ポアロは事件が起きた小さな村ブローディニーに出かけ、ひどい居心地のゲストハウス(料理もひどい)に滞在しながら調査を始める。
ポアロの旧友スペンス警視は、マギンティ夫人を撲殺した容疑で間借人の男を逮捕した。服についた夫人の血という動かしがたい証拠で死刑も確定した。だが事件の顛末に納得のいかない警視はポアロに再調査を要請する。未発見の凶器と手がかりを求めて、現場に急行するポアロ。だが、死刑執行の時は刻々と迫っていた!
『マギンティ夫人は死んだ』(早川書房 クリスティー文庫)
解説:仁賀克雄
『マギンティ夫人は死んだ』相関図
この小説を「なんかいろいろあって長かった」と感じる理由の1つは、登場人物が非常に多いことだと思う。
いつも登場人物が多いといわれるアガサ・クリスティ作品の中でも、群を抜いて多いと言っても良いのでは。
事件現場となったブローディニーの住人に加えて、《日曜の友》紙に出てきた4人の女性の名前が出てきます。
登場人物の簡単な相関図をつくってみました。イラストは、作品中の描写からなんとなくイメージで作成してます。
画像をクリックすると拡大します
ほんと、多いな~w
推理でポイントとなってくるのは、《日曜の友》紙の4人のうち、誰かが素性を隠してブローディニーに住んでいるとしたら誰なのか? という点。
まぁはっきり言って、全員怪しい。笑 クセのある登場人物をよくこれだけ設定して登場させたなと思いました。
平凡な掃除婦であるマギンティ夫人の死という、当初は「べつに面白い殺人事件ではなかった」ところから大掛かりに物語は広がっていきます。
読みどころと感想
数カ月前に起きた事件。手がかりもなかなかつかめない。
ポアロも苦労した事件ではなかったでしょうか。
つまり、この事件に横たわっている興味は殺人者にかかっているので、被害者にあるのではない。
『マギンティ夫人は死んだ』(46ページ)
読み返して気づく、ポアロのこの言葉が印象的でした。
オリヴァ夫人の探偵語り
オリヴァ夫人登場!
まったく話の合わない劇作家ロビンとの共同制作から抜け出し、ポアロの調査に協力しようと聞き込みを実施してしっかり情報をつかんできます。
この作品の中で面白いのは、オリヴァ夫人が、自分が考え出したフィンランド人の探偵に対してボロクソ言っているところだと思います。
どうしてそんな嫌味ったらしい男をわたしが考え出したか、わたしにだってわかるものですか。
『マギンティ夫人は死んだ』(258ページ)
こんなやせっぽちのベジタリアンのフィンランド人に、実際に会ったら、わたしがいままで書いて来たどんな殺人方法より、ずっとましな方法でかたづけてやるから
『マギンティ夫人は死んだ』(259ページ)
どこかで読みましたが、アガサ・クリスティは自分が生み出した探偵ポアロが嫌いだったんですよね。自分はもうポアロ作品は書きたくなかったけど、周囲の要請でいやいや書いていたと。
そうした自分の心境をオリヴァ夫人に投影して描いているのかなと思います。ユーモアがありますよね。
『マギンティ夫人は死んだ』の遊び歌
小説の原題は“Mrs McGinty's Dead”。
『マギンティ夫人は死んだ』というのは、子どもの遊び歌のようですね。
スペンス警視がその遊びを回想するシーンでゲームの内容が説明されていますが、結局何がしたいゲームなのか、それの何が面白いのか、私にはさっぱりわかりませんでした。
この事件では2つの殺人が起きます。1つは遊び歌の歌詞のように被害者が「手をのばして」死に、もう1つは被害者本人が歌っていたとおりに「頸をつきだして」死んだ。
歌の文句の通りに死んだということで説明されていますが、犯人が意図的に見立てたわけではなく、結果的にそのように死んだというだけ。マザーグースなどの童謡に見立てた作品はいくつかありますが、今回はちょっとインパクト薄いかなと思いました。
『そして誰もいなくなった』のような恐怖があれば、見立てる意味も大きいと思うんですが。
それにしても、「死んだ」などと連呼する遊び歌はちょっとどうなんだろう...と思いました。
まぁいいですけど。
もう1つのタイトル “Blood Will Tell”
この作品、もともとは “Blood Will Tell” というタイトルでアメリカで発表されたそうです。
その後、現在のタイトル『マギンティ夫人は死んだ』に改題されて出版されたとのこと。
(アガサ・クリスティ公式サイトより)
Mrs McGinty's Dead by Agatha Christie - Agatha Christie (UK)
“Blood Will Tell” は、日本語だと「血が告げる」のような感じでしょうか。
個人的にはこちらのタイトルのほうが暗示的で好きです。読み終わってから「あぁ、なるほどね」と納得できるタイトルだと思うし、アガサ・クリスティっぽいと思った。
ストーリーや殺人を『マギンティ夫人は死んだ』の遊び歌に強くなぞらえているならともかく、そうでもないし、なんで変えちゃったんですかねぇ。
『マギンティ夫人は死んだ』ネタバレありの感想
面白かったけどちょっと疲労感あり、な作品でした。設定が盛りだくさんすぎて。
また上でも少し書きましたが、「マギンティ夫人が死んだ」という遊び歌のように死ぬのなら、もう少し関連する面白さがあったらなぁという物足りなさも。
でも犯人はまったく予想できなかったので、その点ではいつも通り楽しめました。
最後まで犯人は女だと思わせておきながら、実は男が犯人。それが明かされた時点で、それならロビン・アップワードかなと思いました。2番目の犯行を一番成し遂げやすい状況にいたのは彼でしたからね。
まぁ、ほかの男性陣は描写されている箇所も少なくあんまり存在感もなかったので、ずっと存在感のあったロビンが犯人というのは当然かもしれません。
「イヴリンは男の名前でもある」というのが事件の鍵の1つでしたが、英語圏の名前に馴染みがなければわからないですよね~...。Wikipedia で見たら、イヴリンは女性名、まれに男性名となっていました。
余談ですが海外の名前って男か女かわからないものも多いし、苗字なのか名前なのかわからないものも多いですよね。国によっては父方の苗字と母方の苗字が両方入ってたり、ミドルネームがあったりして、複雑。。
凶器となった砂糖打ちはちょっとどんなものかわからなかったんですが、こちらに載っているものが近い気がしました。真鍮製で、斧のようで。
https://muntkidy.exblog.jp/25954704/
モード・ウイリアムズの男気には惚れ惚れしましたね。ポアロからの電話でその場で仕事をやめることを決め、お手伝いさんになるという。決断力あるよね~。
彼女がこの事件にどのように関わっているのか、何かありそうだと思いつつ最後まで謎でしたが、クレイグ事件の被害者の1人でしたね。子どもの頃、保母兼家庭教師だった女イヴリン・ホープが原因で母が殺され、父は殺人犯として処刑されたという過去がありました。
モード・ウイリアムズは、アップワード夫人が自分の憎むイヴリン・ホープだと考え、ピストルを持って家に行ったこと、そのときにアップワード夫人が死んでいるのを見たことをポアロに話します。
「どうなさるおつもり?」とぶっきらぼうに言う彼女に対して、「いやべつに」というポアロの回答が素敵! 紳士!
「幸福を祈る」とは言いつつ、彼女が想うジェイムズ・ベントリイはデアドリイを好きっぽいことをポアロは知っているので、ちょっと複雑ではありますね。
ちなみに、この物語のその後に関しては『ハロウィーン・パーティ』で少し触れられています。
こちらは『マギンティ夫人は死んだ』とは逆に、ポアロがスペンス警視を訪問して捜査の助力を依頼するというストーリー。オリヴァ夫人も登場していてすごく面白いので、まだの方はぜひ。