スペイン語 tú と usted の違いと使い分け
スペイン語の初学者が最初に悩まされる問題がこれ、tú と usted の違い・使い分けではないでしょうか。
二人称 tú と usted の違いに関しては教科書や参考書の最初に必ず出てきて、相手との関係や心理的な距離によって使い分けると説明されます。
- tú(きみ):友人・親しい相手
- usted(あなた):見知らぬ相手・フォーマルな場面
一言で言うと tú はタメ語、usted は敬語とも言われ、最初は usted で話すのが無難みたいなのもどこかで見た気がします。
でも私は、メキシコで暮らしていたんですが、この考え方には不同意です。tú と usted の使い分けは、日本でいうタメ語・敬語の使い分けとはかなり違う。
メキシコでは usted を使う場面は限られていて、tú を使う場面のほうが圧倒的に多いです。
(話を聞く限り、スペインでの使い方と近いのかなと感じます)
今回は、tú と usted の違いについて、メキシコの例をもとにまとめてみたいと思います。
なお、私はメキシコの都市部に住んでいました。tú と usted の使い分けは国・地域によって大きく異なるので、メキシコ版として参考にしていただければと思います。
目次
tú と usted の違いと使い分けの基本
二人称の tú と usted は、相手との関係・心理的な距離によって使い分けると言われます。
- tú(きみ):友人・親しい相手
- usted(あなた):見知らぬ相手・フォーマルな場面
基本的にはこのコンセプトで使い分けるのですが、じゃあ見知らぬ相手だったら皆 usted なのかというと、そうではない。
メキシコでの tú と usted の使用量は、私が日常生活で使ったり周りが使っているのを聞いたりした実感としては、90% が tú 、残りの 10% が usted という感じです。
使い分け方に関しては、周りがどう話しているのかを聞くのが良いと言われます。
以下、周りのネイティブたちがどういう場合に tú と usted を使っていたかを中心にまとめました。
usted を使うとき
メキシコでは usted を使うシーンのほうが限られているので、まずは usted から。
以下のような相手に対して、一般的に usted が使われます。
- 年配の人
- 公的な場にいる人・権威のある人(役所・警察官・医者など)
- 上司・仕事相手(社風・年齢による)
- 業者からお客に対して(場面・年齢による)
年配の人
私がメキシコ人ネイティブに、どんなときに usted を使う? と聞いて最初に帰ってくる答えが「高齢者(anciano)に対して」です。
特に初対面の高齢者に対しては、敬意と礼儀を払って usted です。
ただ外国人が初対面の高齢者と話す機会はあまり多くないと思います。私は一回だけ、ネイティブがこのシーンで usted を使うのを見ました。
住んでいたマンションを退去するとき、いろいろ手続きをしてくれていた仲介会社の担当者(20~30代)と一緒に最後にオーナーと部屋の確認をするというとき。
部屋にやってきた年配のオーナーマダム(おそらく70代)に対して、仲介会社の担当者はそれまで私たちと気さくに話していたのとは打って変わった態度でマダムに挨拶し、usted で話し始めました。
"¿Cómo está usted?" です。
あぁ、こういうときに usted を使うのか、と私はメキシコを去るときになって初めて実感。笑
確かにその年配マダムには裕福さを感じさせる威厳とオーラ、相手に usted を使わせる雰囲気がありました。確かに彼女には tú は使えないと思った。
もちろん、仲介会社にとってオーナーは仕事相手・お客だから usted を使ったというのもあると思いますが、同年代でカジュアルな雰囲気のオーナーだったら担当者も tú を使ったんじゃないかと思う、それまでの私たちへの態度からして。笑
初対面ではなくても、年配だという理由で usted で呼ぶケースもあります。
仲の良かったネイティブの友人はバレエを習っていたのですが、バレエの先生は70代くらいの年配の方ということで、関係性としては近いものの常に usted で呼んでいるとのことでした。
これは先生だから usted なのではなく、年配の方への敬意として usted。20代以上の大人の場合、先生に対しても50代くらいまでであればたいてい tú です。
マンションの隣人など、年配であっても親しい間柄であれば usted ではなく tú で呼ぶこともあるでしょう。
年配の基準に明確なものはないですが、感覚的には60代~という感じかなぁ。。バスや電車で座席を譲ろうと思うくらいの方。見た目ご年配の方、という感じかなと思います。
公的な場にいる人・権威のある人(役所・警察官・医者など)
公的な場にいる人、権威のある人に対しては usted を使います。
特に警察官は usted だと私はメキシコで習いました。まぁ警察官と話す機会はないように願いたいですし私は話したことはないんですけどね。。
役所や銀行窓口も usted。ちょっと威圧的な警備員とかも相手に usted を使わせる雰囲気がありますね。
大きな病院にいるお医者さんに対しても usted ですね。私は病院は通訳つきでしか行ったことがないですが、通訳の方は usted で話していました。
病院ではエレベーターを降りるときも誰もが Con permiso(失礼します)と言いながら降りていって、かなりフォーマルな雰囲気があります。病院以外の建物でメキシコ人が Con permiso と言いながらエレベーターを降りていくのを聞いたことがありません。(私が知らないだけかもですが)
上司・仕事相手(社風・年齢による)
ビジネスの場では、usted が使われることが日常生活よりは多いかもしれません。
自分の上司に対して tú で呼ぶか usted で呼ぶかは、社内の習慣や、その上司部下の関係性によって変わるようです。
上司・年上の人に対しては基本的に usted を使う会社もあれば、上下関係なく tú で呼び合う会社もあるとのこと。
夫の会社では、メキシコ人ネイティブ同志は上下関係なく tú で呼び合っていたようですが、上司に対しては必ず usted で話すという人もいたようです。
仕事相手に関しては、初対面は usted で、その後は相手との年代の近さや親しさによって tú に移行していくケースが多いようです。
ただこれも、相手が明らかに年配であれば、tú へは移行せず usted で話し続けることもあるでしょう。
仕事の面接に関しては、やはり usted が基本のようです。
業者からお客に対して(場面・年齢による)
業者さんからお客さんに対しても、usted を使うことが多いです。
業者さんというのは、たとえば修理や工事で家に来た業者さん、配送業者さんなど。
Uber の運転手さんは、人によって usted で話しかけてきたり tú で話しかけてきたりするので、こちらとしては相手に合わせて、もしくは自分の使いたいほうで話せば良いと思います。私は基本的に tú で話していましたが、そうすると相手も tú に切り替えてきたりもします。
私がお客として Uber に乗ったときは、若い運転手さんのほうが tú で話しかけてくることが多く、年配の運転手さんのほうが usted を使ってくることが多かった気がします。
レストランやスーパーなどの店員さんは、お客さんに tú を使うケースがほとんどです。こちらから店員さんに注文するときなども tú で OK。
20代~50代くらいまでは、見知らぬ店員だろうがお客だろうが tú で呼び合っています。
ものすごくフォーマルなお店だったり、相手が年配だったりした場合は、お客さんに対して usted を使うかもしれません。
tú を使うとき
tú を使うのは、上記の usted を使うとき以外。なので、日常生活では tú で話すケースが圧倒的に多いと思います。
- 家族・友人同士
- 生徒と先生(先生が50代くらいまで)
- レストラン・カフェ・スーパー・コンビニの店員とお客
- 初対面の人(~50代)
日常生活において大人同士が話す場合、20代~50代くらいまでの人たちは基本的にお互いを tú で呼び合います。
どんな場合でも、相手が年配だなと判断したら usted に切り替える感じでしょうか。
家族・友人同士
家族、友人同士は tú で呼び合います。
この人は友達って言って良いのかな、、と日本人が思う間もなく tú で呼ばれると思うので、tú で話せば OK です。
まだそんなに親しくないかもなどと考えて usted を使うと、相手は「距離を置かれている」と感じると思います。
生徒と先生
usted のところでも少し触れましたが、生徒は先生を基本的に tú で呼びます。60代以上など、明らかに年配な先生であれば usted で呼ぶこともあるかもしれません。
基本的には tú なんですが、ただ、tú を使うか usted を使うかは自分自身の判断なので、自分が usted を使いたいと思ったら usted を使えば良いと思います。
たとえば私が通っていたスペイン語の語学学校では、生徒と先生は基本的にみんな tú で呼び合っていましたが、そういう状況にも関わらず生徒に対しても先生に対しても常に usted を使う生徒が1人いました。
同じように、聴講していた大学の授業でも、先生は 50~60代くらいの男性で学生も先生も皆 tú で呼び合っていたにも関わらず、1人か2人、先生に対しては必ず usted を使う学生がいた。
このあたりは日本人の感覚と違うんだなーと強く感じたところで、日本人だったらみんなが先生のことを tú で呼んでたら自分も tú で呼ぼうってなるじゃないですか。みんなが usted で呼ぶ教室・先生であれば自分も usted で呼ぼうってなると思う。
でもそうじゃなくて、みんながいくら先生を tú で呼んでいても自分は usted を使うっていう学生が、私の経験上各クラスに1人くらいはいる感じなんですよね。この自分を貫いてる感じがすごいなと思った。
語学学校の生徒はネイティブじゃないので何とも言えないですが、大学の学生のほうは、これまで通っていた学校や育ってきたお家の影響で usted のポリシーがあったのかもしれません。
でもだからといって、誰も何も言わなかったです。tú で呼ぼうが usted で呼ぼうが、誰も特に気にしてない感じ(内心はわからんが)。先生もそういう生徒に対してわざわざ Tutéame とか言ってなかった。
例外として、偉い教授など権威のある先生に対しては usted で呼ぶ必要があるケースもあるかもしれません。
レストラン・カフェ・スーパー・コンビニの店員とお客
usted の章でも触れましたが、普通のレストランやスーパーの店員さんはお客さんに対して tú を使うのが一般的です。
お客側も店員に対して tú で OK です。別に知り合いのお店とかじゃなくても。
店員に usted を使っても問題ないですが、ネイティブは tú で話してます。
非常にフォーマルなレストランやホテルでは、もしかしたらお客に usted を使うかもしれません。
初対面の人(~50代)
初対面の人同士も、日常生活であれば tú で話すことがほとんどだと思います。
(例外は、usted の章で書いた「年配の人」「公的な場」「ビジネスの場」)
日本だったら、初対面でいきなりタメ語で話されたら「なんでそんな馴れ馴れしいの?」となると思いますが、メキシコでは tú が普通。
道端で見知らぬ人に道を聞かれたり聞いたりするときも tú だし、知り合いから誰かを紹介されて初対面で会うときも tú。
だから、ほとんど tú なんです。
日本のタメ語と敬語のくくりとは全くかみ合わない感覚です。
相手に usted を使っても別に問題はありませんが、ビジネスの場でなければ相手に距離を置く印象を与えると思います。メキシコで2年間暮らしただけの私でも、相手から usted を使われたら、丁寧語を使われているというよりも、あ、距離を置かれてるなと感じる。
普通は、20~50代くらいなら、向こうからは tú で話しかけられると思います。
ちなみに、30代の私が usted を使われたのは、2年間で数回、家に来た修理業者さんと Uber の運転手さんくらいだったと思います。
DELE の面接も tú でした
私はメキシコで A2 、日本で B1 の DELE を受験しましたが、両方とも試験官からは tú で話しかけられ、私も tú で話しました。
日本で受験するときは、tú が良いか usted が良いかを最初に聞かれるという話をどこかで読んでいたんですが、私の試験官は最初の挨拶から ¿Cómo estás? で始まり、tú か usted かを質問されることもなく Tutear で会話が始まりました。
DELE の試験に関しては、聞かれても聞かれなくても自分の話したいほうで話せば良いんじゃないかなという気がします。
メキシコでの受験時も、面接は満点だったので tú で問題なかったと思います。
当時、tú で話すか usted で話したほうが良いのか迷った記憶がないので、おそらく当時のスペイン語の先生に tú で良いと言われたんじゃないかなと思います。(記憶が不確かですみません)
使い分けをミスったら? 結局大事なのは態度と表情
tú と usted の使い分けをミスったらどうなるか。
メキシコの場合基本的には tú で OK なので、ミスるとしたら usted を使うべき場面で tú を使ってしまうケースでしょう。
結局、コミュニケーションで一番大事なのは態度と表情で、本来なら usted を使うべき場面でも、丁寧で礼儀正しい態度の Tutear ならば、相手を怒らせたり関係が悪くなるなどの大きな問題になることはないと感じます。
(甘えちゃいけないですが、外国人ならなおさら)
逆に、強い口調で usted を使うと、相手に対して距離を置きたいことを明確に伝えることになります。私のスペイン語の先生は、相手を非難するときや、相手に怒りを示すときに usted を使うと言っていました。まぁそれはちょっと外国人にとっては高度な使い方だと思いますが。
tú と usted の使い分けは、間違えても大問題にはならないとは思いますが、特に公的な場では正しく使い分けたほうが当然 educado な印象は与えられます。
日々 tú で話していると、いきなり usted の活用は出てこないときがあるので、たまに usted の活用も独り言で練習しておくと良いかもしれません。
(usted の活用は三人称と同じですが、「三人称の活用=彼・彼女」の思考に慣れていると、なかなか usted の活用として出てこないものなのです)